高山病について
以下は、高所トレッキング時の高山病対策の一例です。私がトレッキング時に注意点として頂いた物です
9.高山病予防について
(1)高山病について(日本旅行医学会誌より)
@ 高山病の症状について:
高山病の症状には初期のごく軽いものから次第に悪化して死に至るような非常に重症なものまでいろいろあります。
山酔い(AMS:Acute Mountain Sickness)・初期症状
○ 頭痛(なんとなくいつも頭が痛い、頭を振ると痛い)
○ 食欲減退、吐き気(食べるとすぐに戻す)
○ 不眠(夜寝つけない、熟睡できない、いびきが大きい)
○ 胸部の圧迫感(いくら息を吸っても胸がスッキリしない)
○ 顔や手のむくみ(まぶたが腫れる、手が握りにくい)
○ 放屁(気圧の低下で膨満感が強くなり、腸管内にガスが溜まる為)
このような症状は個人差もありますが大体3000m前後で現れてきます。これらは高山病というよりも高所に行った場合、誰もが避け得ない人体の高所反応とも言うべきもので、日本の山でも経験することがあります。しかし日本の場合はそれ以上高く登ることがないので余り問題はありませんが、ネパールのトレッキングではこれからが登りです。そしてこれらの症状は、いわば身体が発した警戒信号です。初期症状を軽く考えて無理をすることが最も危険です。
A 山酔い症状が出た時
a.その日は停滞して、決してそれ以上高度を上げないこと
身体を休めて低酸素状態に身体を慣らすことが大切です。これを「高度(高所)順応」といいます。大したことはないからと登り続けても決して良くはなりません。順応の為の停滞を惜しむことは先々の楽しみをかえって台無しにすることになりかねません。軽度の頭痛なら軽い動作で呼吸が大きくなり症状が消える場合がありますが、消えなければ安静を保ちます。寝て横になる時軽く上体を上げたほうが呼吸は楽になります。
b.水分をたくさん摂り、トイレに行きましょう(予防で実行しましょう!
毎日水分はたくさん摂りましょう、高所では脱水が起こりやすく、渇きの感覚も鈍化します。平地では、普通の人は毎日約2リットルの水分を必要とします。高所では1日の水分必要量は4リットルを超えることが多い。水分摂取量が適当かどうかは、尿量で判断できる。1日に少なくとも1.5リットルの尿量が必要である。特に女性の場合は、つい我慢しがちですが、充分気を付けることです。
c.暖かくして、ゆっくり休養すること
寒さで身体が縮こまっていたり、肩に力が入っていませんか。寒さを我慢していては、ゆっくり休むことにはなりません。また、不眠や頭痛も良くなりません。寒さによるふるえは酸素消費量を増すため保温に努めましょう。 ▲暖かいシュラフの準備を。
d.深呼吸をする
呼吸はどうしても早く浅くなります。深く大きく息をして酸素を体内に取り入れましょう。意識をして深呼吸をしましょう。休憩のたびに、ゆっくりと、深く、30回以上を。
e.鎮痛剤
頭痛に対して服用しても構いませんが、バファリン、アスピリン程度で眠くなるようなものは避けます。
高山病に睡眠は禁物です。
f.利尿剤
利尿作用が強く電解バランスを崩すラシックスは医師の管理が必要です。マイルドなダイアモックス(アセタゾラミド)は有効であるという報告もあり、予防薬として入山前より服用する方法(登山開始1日前から高所到着後3〜5日目まで、1日2回起床時と寝る前に各125mg・半錠服用)もとられています。(但し、ダイアモックスには副作用として口唇、手足のしびれが出ることがあります、医師の処方が必要です)
B 高山病の予防について:
a.高地に到着後1週間は過度な運動は避けましょう。高山病の症状は、高地到着直後には出ませんが、到着日に元気に動き回った人ほど発症し易くなります。
b.高地到着日と翌日はアルコールの摂取と睡眠薬の内服は避けましょう。どちらも呼吸を抑制し、高山病を発症させ易くします。また、喫煙も好ましくありません。
c.水分を十分取りましょう。アルコール以外の飲み物なら何でも構いません。とにかく水分を沢山飲みましょう。
d.すぐにエネルギーになる炭水化物を多く摂取しましょう。飴を舐めるのは非常に良いことですが、チョコレートは脂肪分が多く、高地では食欲低下の原因になるのでやめた方が良いでしょう。また、食事に米や麺類を食べることは良いことですが、低酸素では消化機能が低下するため、食べ過ぎに注意してください。消化薬の服用はお勧め出来ます。
e.行動中は深呼吸をしましょう。休憩のたびに、ゆっくりと、深く、30回以上を心がけてください。また、夜、トイレに起きた時には、シュラフに入る前に30回以上の深呼吸をしてください。
f.首を激しく振る運動は高山病の引き金になりますので、注意が必要です。
C
高山病予防薬の内服について:
日本では緑内障の治療薬として販売されているアセトゾラミド・Acetozolamide(商品名:ダイアモックス・DIAMOX)の内服は高山病の予防効果がある他、不眠を改善したり、起床時の頭痛を緩和させる等治療薬としても効果があります。予防内服方法は次の通りです。
a.高地到着の前夜又は当日朝より内服を開始し、到着後2日目又は3日目まで内服しましょう。
b.1日2回(朝、寝る前)、125mgずつ内服します。1日1回寝る前に250mg(1錠)内服する方法もあります。また、体重が45kg以下の場合は半分に減量しましょう。(ダイアモックス錠は縦横に線が入っており、半分又は1/4に割ることが可能です。)
c.起立時、足底がジンジンしたり、手指の先端を机等に押し付けたときにジンジンする感じがあれば、血液中で薬が最適濃度になっていると言われています。逆に、何もしなくても指先がしびれる場合は、薬の量を半分に減らしましょう。
d.ダイアモックスは利尿作用(尿の量が多くなる作用)がありますので、水分を十分補給してください。また、血圧を下げる薬を飲んでいる人は血圧が更に下がってしまうことがありますので、内服前に医師に相談して下さい。
e.ダイアモックスは本来、目の病気、緑内障の治療薬です。現在、緑内障の治療を受けている方や、過去に眼圧に異常があった方は、内服前に医師に相談してください。
f.ダイアモックスは利尿(尿の量が多くなる)作用があるので、水分を十分に補給して下さい。
(2)高山病で死なないために(ネパールトレッキング情報より)
@ 2000メートルを超える地域への旅行には高山病の危険
最近は世界各国の様々な場所へ旅行することが出来るようになりました。かつては一部の登山家や特別の目的を持った人しか行かなかった高地にも、飛行機やヘリコプターなどを使って簡単に行けるようになってきました。ところがその結果、旅行者本人が意識せずに標高の高い地域に滞在することにもなっているのです。高山病というと特別な登山家だけのものと思われがちですが、1800mから2500mを越える地域への旅行には高山病の危険があります。
日本では富士山の五合目で2300m、頂上で3776mですから、富士登山をされる方でも高山病の危険はあります。しかし、登頂後すぐに下りるので、軽い症状に気付くまでもなく回復するケースがほとんどです。だから、富士山に登ってなにもなかった経験があると言うことだけで安心することはできません。
A 高山病のかかりやすさは生まれつき?
それではどんな人が高山病にかかりやすいのでしょうか。それは実際に行ってみないと判らないのです。
この高山病になりやすいかどうかは、それぞれの個人による差が大きく、なりやすいかどうかを調べる方法もありません。また、今までの経験によれば、高山病のかかりやすさは生まれつきのもので、次第になれることもなく、トレーニングによって改善されることもありません。3000m以上に十数回も訪れているのに、行く度に高山病に悩まされる登山家やトレッカーもいます。
ただ、健康な人でも、疲労が蓄積した場合とか、睡眠不足とか、便通が悪くなった場合にはかかりやすいと言われています。
もしあなたが、うっ血性心不全や呼吸不全の状態であれば、このような高地への旅行を決める前に主治医の先生に相談することをおすすめします。担当の先生が高山病に対してよく判らないと言われたら、日本旅行医学会や旅行医学に詳しい先生とご相談ください。
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の方は、高山病が発生する危険度に通常の方と差はありません。ただ、もしその発作が医療施設の不十分な遠隔地で起きた場合には、適切な治療を受けられるのかどうかという心配が残ります。
B 高山病の症状
高山病は、
a.山酔い(acute mountain sickness・AMS)
b.高地脳浮腫(high-altitude cerebral edema・HACE)
c.高地肺水腫(high-altitude pulmonary edema ・HAPE)
という大きく3種類の症候群に分けられます。
a.山酔い(AMS)は一番よく見られる症状で、1200〜1800mの高度でも発症し、2700m以上の高さに急に登った時によく起きます。症状は二日酔に似ていて、頭痛や倦怠感があり食欲がなく、吐き気があり時には嘔吐します。この山酔いの症状が現れるのは遅く、普通高地に到着後6時間〜12時間後に始まります。特に、就寝中に発症しやすく、できれば一部屋に複数の人数で泊まってください。就寝中にいびきが異常に大きくなったとか、呼吸数が多くなった症状など、初期症状にお互いに気をつけることができます。
b.高地脳浮腫(HACE)は山酔いが激しくなったものです。山酔いの症状に加えて倦怠感が強くなり、考えがまとまらなくなり、縦列歩行テスト(タンデムテスト)で運動失調が見られます。縦列歩行テストとは、まっすぐな線上をかかととつまさきを交互に接触させながら歩く検査で、高地脳浮腫(HACE)があるかどうかを見分けるのにはもっとも良い検査です。この縦列歩行テストを行って線からはずれるようなら高地脳浮腫(HACE)があると考えて、すぐに高度の低い地点におろすべきです。本人の意思にかかわらず、症状が見られなかった高度まで強制的に下ろしてください。
c.高地肺水腫 (HAPE)は単独でおきたり、高地脳浮腫と一緒におきてきます。最初の症状は運動をした時の息切れが激しくなってくることです。そして、次第に安静時にも息切れがひどくなります。通常は数分安静にして息切れがなくなるかどうかで診断できます。この時点で、前項と同様、確実に問題のなかった高度の低い地点に強制的に下ろすことが必要です。
C すぐに高地から下りれば死ぬことはない
高地を旅行する方に高山病について一番理解しておいて欲しいことは、高山病を完全に予防することではなくて、高山病で死なないことです。高山病の症状の発現や病気の進行は非常に遅く、十分予測が可能です。天候に遮られたり地理的に下へおろすことが不可能であるような条件がない限り、きちんとした対応をとれば高山病で死ぬことはないのです。
高山病で死なないために知っておいて欲しいのは次の3点です。
@ 高山病の早期症状を知って、その症状の出現が判るようにする。
A 高山病の何らかの症状があったら、それ以上高い地点に上がらない。
B 同じ高度で休んでいても症状が悪くなったら低い地点に下りる。
おかしかったらすぐに低い地点まで下りるというのが鉄則です。周りの人と歩調を合わせようというのが一番危険です。
D 団体旅行の方が危険!?
調査によると、高度の高い地点への旅行では団体旅行のほうが個人旅行よりも高山病で死にやすいといわれています。たぶん団体としての重圧があったり、日程に余裕がないためでしょう。どのような状況にあっても、ひどい高山病とならないためには、高山病の症状がすっかりおさまるまで、それ以上高い地点に登らないことです。命の方が大切ですから。
E 高山病の治
高山病の予防及び治療に効く薬は3種類あります。
その中で一番使いやすい薬は、商品名 Diamoxダイアモックスです。この薬を高地に上がる前に飲んでおけば山酔いを防止することができます。また症状が現れてからでも服用すれば早急に改善されます。この薬の作用により、血液が酸性となるために呼吸が刺激されて増加し、その結果高地に順応することができます。通常の投与量は250mgを1日2回高地に行く前の日から服用します。125mg1日2回でも同様の効果が得られて副作用が少なくなると言われていますので、私どもは125mg1日2回の服用をお勧めしております。この薬に対するアレルギー反応は稀ですが、ダイアモックスはスルフォンアミド化合物であるため、サルファ剤にアレルギーのある方の服用はおやめください。
Dexamethasoneデキサメタゾンは副腎皮質ホルモン剤ですが、山酔いと高地脳浮腫の予防と治療に効果があることが知られています。この薬剤により高山病の症状は改善しますが、高地に順応する効果はありません。そのため、服用している間だけ症状を抑えますので、もし高地にいく途中で薬がなくなったら、高山病の症状が急に現れる危険があります。高地に旅行される方は、まず山酔いの防止のためにダイアモックスを服用しますが、激しい症状が出たときのためにデキサメタゾンを持っていく方がよいでしょう。投与量は6時間毎に4mgです。ただし、専門家がいればの話で、素人治療は好ましくありません。服用する場合は、病院か医療の専門家のいるところで相談してからにしてください。
F 高山病予防の一番良い方法は、ゆっくりとした計画
ほとんどの旅行者にとって高山病予防の一番良い方法は、ゆっくりとした計画を組むことです。もしこれができなければダイアモックスを予防的に使用して、緊急のためにデキサメタゾンとニフェジピンを持っていってください。(今回は、ダイアモックスのみを持っていく計画です)
G 薬の入手方法
残念ながらこれらの薬は、処方箋なしで一般の薬局で購入することはできません。医師に相談して処方してもらってください。保険の適用にはなりません。